猫背歩行

普段言いたくても言えないことを、色々。

脱皮/ライナーノーツ

経済的であれ精神的であれ、死を直視せざるを得ない状況に置かれた彼女たちが、明日死ぬ希望で今日を生き延びてきた彼女たちが、その一線を超えてしまいそうになるとき、誰にも外せなかったブラジャーのホックがパチンと外れて、脱皮した新しい自分が初めて世界とまぐわう。
世界とセックスすることなく死んでいけるなら、それで幸せなら、そのほうがいい。
死が現実味を帯びるとき、世界と自意識が同化して、どうかして、痛みと快楽でクラクラするように、彼女の世界は彼女の脳みそだけのものとなって、彼女は新たな世界を知覚して感覚する。

それを完璧な常識武装と仮想的な倫理思想で批判することは簡単であるし、そんなものをいとも容易く装備できるならそれこそ羨ましいことである。
痛みを伴う一歩一歩を、無傷の彼らが嘲笑するのは果てしなく馬鹿げていて、穢れさえも餌にして生きながら死に向かう彼女たちが、脱皮して脱皮して、最後はどんな姿になるのか、まだ結末はわからないけれど、後ろめたい衝動や欲望を一分一秒生きのばすための延命措置として、脱皮していく彼女たちがせめて寂しくありませんように。

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自分を痛めつけたり、からだを売ったり、そんなことをせずに生きていけるならそのほうがいいし、それらを完全な悪だと言い切れる環境にあなたが置かれているならそれは幸せこの上ないことだと思う。
大きなリスクやハンデを生む可能性を知りながら、でも生きていくために、この精神が壊れないようにするために、それらの手段を用いて延命することは仕方ないことだ。
どんな手段を使ってでも、それが非道徳的だったり、倫理に適っていなかったとしても、彼女には生きていて欲しかったし、そんな暫定的な評価は時間とともに錆びれていくから心配ないと、言ってあげたかった。
あなたのその、決して褒められない衝動をわたしは知っている。
その先にどんな未来が待っているのか、わたしもあなたもきっとわからないけれど、その苦しさは独りでないことをわたしが伝えたい。

 

 

「脱皮」

 

チートを駆使してエンドロールを急いでいる
正義の盾はわたしを庇わなかったから

 

最後の糸を手繰り寄せて
たどり着いたのはダークヒーロー
肯定を右手に左手にわたしを

 

獣のかえりかた
恵まれなかった衝動で野獣となって
そのまま現を食ってしまえ
清純は昨日においてきた
心を削りながら生きるくらいなら
いくらでも汚れてみせる

 

救いの手は永遠を約束したがらない
そんな愚かさにすがりつく23時

 

越えられない夜を越えるために

消えそうな灯火だけをたよりに

呼ぶ声は聞こえない

それでもいいから

 

皮膚を破り捨てる
いつか死ぬなら この世はいずれ消えるなら
正しさも不正解も殴り倒して

 

地獄から地獄行きだけどようこそ極彩色の世界へ
タバコ臭い部屋を清算したら
ひとつまみの罪をサインバルタと一緒に飲み込んで最果ては最早

 

脱皮を重ねて
誰も知らない怪物になったとして
どんなにその素顔が醜くなっても
息をするためにただ這いつくばった

わたしのこの抜け殻を
あなたは笑うんだろうか